中国におけるテスラの最近の動きを見て思ったことを書き綴る。
昨年年央から今年にかけて、中国の新エネ車市場を震撼させたニュースが続いた。それは、テスラのルール破りの新車値下げと全国統一サービス価格の発表である。
ルール破りの値下げ
昨年5月にテスラは「緊急値下げ」サプライズとして国産Model 3の販売価格をぎりぎり30万元未満に引き下げると発表した。30万元以下は、新しい新エネ車補助金を適用する車両価格ラインで、今回の値下げにより、Model 3の補助金適用後販売価格は27万元(約430万円)になった。
さらに10月にテスラは、2回目の値下げを突然発表した。国産Model 3スタンダードレンジプラスの補助金後の販売価格は24.9万元(約400万円)に引き下げられた。
20万元台は、EVベンチャーを含む多くのライバルメーカーと同等もしくは安い価格帯である。20万元台に下がったことは、自動車新興勢力を含む他のライバルメーカーにとって悪夢である。とくにNIOやXpeng 、理想汽車のようなEVベンチャーは、いずれもテスラを手本にしつつ、テスラと同等もしくはテスラより低価格で販売する戦略をとっているため、テスラの値下げを最も嫌がっている。
テスラの値下げは国産Model 3にとどまったわけではない。今年に入って、テスラは中国市場にModel Yを投入すると同時に、発売価格を当初発表した価格よりも16万元(約200万円)も下げたことで大きな話題となった。これはEVベンチャー、特にNIOや理想汽車などのSUV競合車種にとって追い打ちとなるだろう。
いつでも値下げする可能性はあることは消費者を一喜一憂させるが、他ブランドの潜在ユーザーを浮気させ、EVベンチャー、さらにベンツ、BMW、アウディなどの高級タイプガソリン車を検討中のユーザーもテスラのショールームに引き付けている。
テスラとその追随者たちの販売台数の推移
データ出所:乗用車市場情報連席会
全国統一サービス価格
今年2月23日、テスラは中国国内統一保守点検価格表を発表し、すべてのテスラのサービス店舗で公示した。メンテナンス項目には、エアコン乾燥剤の交換、ブレーキ液の交換、バッテリー・冷却液の交換、キャブエアクリーナの交換、ワイパーキットの交換、タイヤローテーションなどが含まれる。
伝統的なガソリン車の同価格帯車種と比較すると、テスラのメンテナンス価格の特徴の1つは、部品代は安く、工賃は高いことである。例えば、Model 3のブレーキ液交換の部品代は132元、工賃は621.5元で、総費用は753.5元である。対してアウディA4Lのブレーキ液交換の材料費は150-170元、工賃は300-350元である。
もう1つの特徴は、同じタイプの保守点検項目で、ハイグレードほど、費用が高くなるとは限らないことである。伝統的なハイエンドガソリン車では、部品代と工賃は車価格と比例して変わることが多く、同じメンテナンス項目ではベンツSクラスは通常ベンツCクラスより工賃が大幅に高い。対してテスラの場合は、Model 3の修理費用は、Model Sを上回る場合はある。これは、おそらく車両の設計によって部品交換工程や手順に大きな違いがあるためだろう。
電気自動車と内燃機構自動車のパワートレイン構造が異なるため、テスラのメンテナンスは後者と大きく異なる。例えば、ガソリン車が半年から1年の間隔で行わなければならないオイルやフィルターの交換、一定のキロ数に達した後に点火プラグを交換する必要があるなど、テスラの車種には存在しない。
工賃は高めだが、メンテナンス周期と頻度が異なるため、トータル保守費用では、テスラは、ベンツ、BMW、アウディなどの高級タイプガソリン車より安く、このうちModel 3は中国国内の一般的な合弁ブランド車とほぼ同じ水準にある。
アフターサービス業界の知人によると、通常3年または6万キロの周期で計算すると、テスラのトータルメンテナンス費用は同価格帯の高級車を大幅に下回っている。例えばテスラModel 3とほぼ同価格のアウディA4L、ベンツCクラス、BMW 3系の6万キロのメンテナンス費用は1~1.5元で、Model 3の12万キロ走行のメンテナンス費用に相当する。
メンテナンスコストを下げることで、保険価格を下げることができ、車の保有コストをさらに軽減することができる。
テスラの破壊力
テスラは、車両の品質についてユーザーに称賛されたことはあまり聞いていない。それにも関わらず、テスラは順調にシェアを伸ばしている。テスラの快進撃は、製品力以外にユーザーに良いサービス体験を提供しているためだの見方はある。それは本当であれば、テスラが、従来の自動車メーカーのディーラー販売システムに代わって、アップルなどインターネット企業の一貫した直販方式を採用していることが奏功したことを意味している。
ユーザーにとって直販方式のメリットは、車両とサービスの価格を完全にユーザー自身が把握し、中間業者によって価格やサービスの質に大きな差が生じないことである。デメリットは、責任の所在は不明確で、質の良いサービスを受けられないことである。
中国の現状からすれば、とくにサービス価格の透明性に欠けている輸入車や高級ブランド車種を扱っているディーラーに対するユーザーの不満が根強いため、価格の透明性による恩恵が実感でき、サービスの質は時間が経たないとわからない。ユーザーにとって直販方式のメリットはデメリットより大きく感じやすいと推察できる。
新エネ車業界では、テスラが間違いなく手本で、テスラのやり方をマネしたり、追随したりするメーカーが増えると、従来のディーラー販売システムが崩壊する。変化は思うより早く来るかもしれないが、業界はどのように激変に対応するかが緊急課題となるだろう。